アンティグアまったり滞在記

16年ぶりのグアテマラ旅行はこんな旅でした

2024年5月、8年ぶりに海外へ行った。親の看病やコロナ禍で機会を逃していたが、記念すべき還暦を迎え、円安にひるんでいる場合ではないと航空券を手配した。
 海外旅行は趣味だ。20歳の時にアメリカへ行って以来、お金と時間ができると、せっせと旅に出た。「できるだけ知らない土地に行きたい」と同じ国は極力避け40か国ほど行った。リピートしたのは、ホストファミリーがいたアメリカとご当地料理が大好きなメキシコ、トルコ、タイ。あとは、今回のグアテマラだ。'96年、'06年、'08年の3回行っている。スペイン語学校に格安で通えることと、下宿先の家族との相性が良かったことがリピの理由だ。
 下宿屋の女将ロメリアにもう一度、会いたい。思いが募り、4回目の訪問となった。
 久々の海外はいろんなことが変わっていた。まず、物価。16年ぶりのグアテマラは、1ドル160円という円安の影響もあり、円換算すると下宿代は2倍、語学学校の授業料は3倍に値上がりしていた。
 次に、旅の必需品。「パスポート、航空券、お金」から「パスポートとスマホ」に変わっていた。航空会社のチェックインはパスポートを見せるだけ。家で印刷したEチケットの控えは出番なし。出入国の手続きもペーパーレスになり、係官がパスポートをスキャンして、顔写真を撮って、国によっては両手の指紋も撮って、認証されれば通過。日本に帰国した時は係官もいない窓口で自らパスポートをスキャンして、顔をカメラに向けて、問題なければゲートが開いて入国という要領。まるでスーパーのセルフレジだ。マジで書類書くことなかった、こりゃラクチンだったわ、と油断していたら最後の最後、日本入国後の税関で申告書を書いて出せと言われ、慌てた。
 スマホの必要性に至っては、驚きの連続だった。そもそも私のスマホは海外では通話できない契約だし、治安の問題で持っていかなくても良いかと考えていた。目的地は外務省の海外安全ホームページで「十分注意」のレベル1から「不要不急の渡航中止」のレベル2の国。初めて行った時は「ピアスはあかん。耳たぶごと盗られるで」と教えられ、その後もバスや路上で強盗に遭遇した話など会う人ごとに聞いた。滞在するのが安全な古都・アンティグアとはいえ、貴重品の持ち歩きはやはり心配。だが、ならばデジカメ持っていくのか? と思い悩み、結局スマホを持っていくことにした。出発すると、これが日本以上に手放せない存在となった。空港だけでなく下宿先も語学学校もWiFi環境が整っていて、ネットがサクサク。LINEもフェイスブックも使え、通話までできた。学校の先生に聞いたところ、通信環境はコロナ禍で一気に普及したとのことだった。前回までわざわざネットカフェに行って時間貸しのパソコンでメールの送受信をしていたのに、今回は自室でいつでもできた。恐るべし変化だ。学校の授業中も辞書を引くより翻訳サイトのほうが早いため、スマホで調べながら授業を受けていた。ある日、ロメリアの孫が「日本人の女の子を紹介して」とスマホに日本語の画面を出して見せに来た時は、もう外国語を学ぶ必要はなくなったな、と思った。しかし、ここまで便利なのもどないやねん。言葉がわからなくてもコミュニケーションがとれるということは、私が初めてグアテマラに入った時のような失敗も苦労もなくなるわけで、辛い思いをすることはなくなるけれど。同時に、初めて使う言語で声をかける時の緊張も通じた時の興奮もなくなるのだ。それって面白いでっか? きっとつまらんと思うで。
 同じ変わるならシャワーとトイレの機能が変わってて欲しかった。下宿先は改築し、シャワーとトイレは新しくなっていたが、出ると言われたシャワーのお湯は相変わらず冷水じゃないというだけの「ぬるい水」だし、トイレで使った紙はゴミ箱に捨てるパターン。洗浄機付き便座など望めるはずはなく、私は大人用のお尻拭きを持参し、凌いでいた。とはいえ、アンティグアは世界遺産の町、簡単には建て替えられないから仕方ない。その分、街並みは変わってなくて、ホッとした。
町並み同様、人も変わってなかった。歳になったロメリアは、以前のように機敏には動けなくなっていたが、昔と変わらない笑顔で迎え入れてくれ、昔と変わらず毎日、掃除や洗濯をし、用意ができれば「ご飯だよ~」と呼びに来てくれた。28年前に若い女に捨てられ戻ってきたご主人ルイスは、以来おとなしくなったそうで、滞在中は昔から使っている大きな食卓を一緒に囲み、ロメリアの作ったご飯を食べた。初めて来た時と同じ食卓の風景が、そこにあった。この数年で両親を見送り、アメリカのホストファミリーも他界し、日常の風景が一変した私にとって、グアテマラのその景色は癒しにもつながる心地よいものであった。変らないって、いいなぁ。この年になったからこそ抱いた感情を噛みしめた。  (終わり)

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