どこの国でもおばさんは強く楽しく生きていた!

世界おばおば遭遇記

Vol.2 エクアドルの破壊おばさん

出会った場所
エクアドル キト

キト旧市街
常春のキト市街
キトとは…
エクアドルの首都。赤道直下にあるが、標高2850mに位置するため常春の町。
1978年、ガラパコス諸島とともに世界遺産に登録された旧市街には、
スペインの植民地時代の教会や聖堂が今も数多く残っている。
エクアドル地図

エクアドルの破壊おばさん

 

 バナナとガラパゴス諸島で知られる南米大陸のエクアドルは、赤道直下にある。だが、首都のキトは標高2850mの高地で、朝夕はセーターが必要なほど冷えた。土地に慣れるまでは高山病の恐れもある。私も到着後、頭痛と軽いめまいに襲われた。おかげで安宿探しも気合いが入らず、新市街の通りを2~3本歩いただけで、目に付いた1泊5ドルの小さな宿にチェックインした。それが縁で私は宿のオーナー宅へ2週間ホームステイすることができたのだが。
 宿から約4キロ離れた住宅街にある自宅は、2階に86歳のオーナーと妻と50歳の独身長女が、1階に48歳の次女と大学教授の夫と二男一女が住む2世帯住宅だった。上下階共4LDKの邸宅で、住込みお手伝いさんもいればデカい番犬もいる上流家庭だ。家系も良いらしいのだが、家計は政情不安と経済悪化で火の車とのこと。その証拠が私をホームステイさせたことと3食付1日8ドル(約950円/1999年2月当時のレート換算)の費用を現地通貨ではなく米ドルで要求したことだった。(現地通貨の価値は日々下落し、すぐ『紙切れ』状態になるため。)

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 さて、その一家でスペシャルな個性を発揮していたのが、次女のビルマおばさんだった。彼女は、妻、母、ホテルウーマンにカウンセラーになるための専門学校生の顔も持つご多忙主婦だった。宿ではフロント業務をしながら笑顔で客の応対をし、しかめっ面で従業員を注意する。家では家事をしながら真顔で息子の進路相談に乗り、目をつり上げて反抗期の娘を叱る。「バッグがない」「車のキーは!?」と走り回ることも多く、いつ見てもパタパタしていた。
 そないにドタバタしてて、よう心身がもちまんなぁ。
 しかも、休みは日曜の午前だけと聞き、半ば感心して見ていた。

kitchen
 ある週末の夜。妙に家の中が騒がしい。何事かと部屋から出ると、ビルマが寝室でどハデなドレスとハイヒールを並べ、鏡の前で衣装合わせをしていた。私に気づいて、
「今日はパーティーがあるのよ。一族に代々伝わる月に1度の『従兄弟会』。今月は我が家でやる番だから、あなたもどうぞ」
 と言った。そして、
「ねぇ、このドレス、どう? こっちは?」
と、とっかえひっかえ衣装替え。
 オバさん、衣装より目の下のクマの始末が先ちゃうか?
「あ、でもこれじゃあサルサを踊った時、裾がイマイチだわね」
 疲労困憊のはずなのに、パーティーを開催する上、踊るんかい!?
「あ、もうすぐみんな来るわ」
 ビルマは『センスもくそも関係ない、とにかく派手で目立てば気分は最高!』仕様の衣装でパタパタと出ていった。

 午後9時を過ぎて、従兄弟たちが徐々に集まってきた。ビルマは客が来る度、高らかな声でリビングへ招き入れては、ラム酒で乾杯する。そして、間もなく、音楽をかけた。真っ先にフロアーに踊り出たのは、ゲストではなくホスト側のビルマだ。10数名の客がはやし立てる中、回って回ってくるくる回って、休憩がてら飲んでしゃべって、再び踊ってくるくる踊って、喉が乾けばラム酒をあおる。12時を過ぎて宴も最高潮。ビルマはとうとうソファーに座っている客を押し退け、そこに乗ったかと思うと、すぐにテーブルをお立ち台に踊り始めた。
 まるでビルマのオン・ステージ。
 天井を見上げ、手を広げ、ゆらゆら揺れながら恍惚の表情でステップを踏むビルマ。
 は、恥ずかしい…。
 でも、客はやんややんやの大喝采。一緒にテーブル上で踊り出す人も!
 みんな、く、狂ってる…。
 寒気を覚え、そそくさとベッドに向かった。
 翌朝、シラフになったビルマがどんな顔して起きてくるかと思いつつ、私はキッチンに入った。彼女は酒臭い息をふりまきながら朝食準備をしていた。
「二日酔いは…大丈夫?」
 尋ねた私に彼女は言った。
「頭はちょっと痛いけど平気よ。それにしても、楽しかったわ。やっぱり月に1度くらいは、ああでなくちゃ。さ、お洗濯しようっと」
 妙にすっきりした顔でパタパタと出て行った。彼女がいつも元気に動ける理由がわかった気がした。

familia
●旅を振り返って
 自分が壊れそうになる前に、自らの手で壊し、直しておくのも処世術のひとつなのね。特に、生活がいつどこでどう変わるかわからない厳しい状況の中では必要な知恵かも。
 日本には似たような状況のオバオバも多いけど、こんな風に自分を壊せる場って少ないように思う。
 あ、だから『壊れたヒト』が多いのか。ナットク。
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エクアドルのこと知りたい方は
外務省海外安全ホームページ
外務省 基礎データ

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